Mr.HOBO
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もうすぐだから
 窓をすこし開けると、すぅーっと冷たい風が入ってきた。
「今年の冬は寒くなるね」と母が言う。灯油が高いから去年は10月
いっぱいストーブをつけずに我慢したけど、今年はついに今日、スト
ーブに火をいれた。「やっぱり温かいね」と母が嬉しそうに笑った。
 ぼくは、あと何回このストーブに火をいれ、あと何回母が笑うのか
なと考えた。ふたりで笑いながらストーブを囲み、灯油の値について
愚痴ているうちはまだいい。もしもぼくがひとりになったら、無精な
ぼくのことだ、ステンレスのストーブの上にはおそらくホコリがかぶ
り、味気ない発火作業をするのかなと思うと、なんと切ない。

 今年2月にガンの手術をした母の経過はすこぶる良いようで、右側
のおっぱいが無い母はバランスの悪さをいつも嘆いている。寒くなる
と傷口が痛むと言い、可哀相だと思うがぼくにはどうしてあげること
もできない。
 ぼくがまだ小学生のころ、歯が痛くて夜中に騒いだことがあった。
歯を磨いても正露丸をつめても痛みは増すばかりで頭のてっぺんまで
ズキズキ痛んだ。ひどい歯痛だった。母は上っ張りをひっかけて、車
で隣町まで薬を買いに行ってくれたのだ。ぼくの町には薬局がなく、
40キロ離れた隣町まで車で薬を買いに行ってくれた母。真夜中に薬
局のシャッターをたたき、やっとの思いで母は薬を手にいれた。しば
れる2月の夜に、ほっぺたを真っ赤にして帰ってきた母は、水ではな
くてぬるま湯でその薬をぼくに飲ませてくれた。
 40年も前の出来事だ。その夜もストーブがしゅんしゅん鳴ってい
た。母はぼくの肩に毛布をかけてくれ、「もうすぐ痛みはとまるから、
すぐだから」と笑った。


 母はずいぶん小さくなった。この老いた背に、ぼくは育てられたの
だ。ガンの傷が痛いという母に、ぼくはこう言ってあげたい。
「もうすぐ痛みはとまるから、もうすぐだから」
 水ではなくぬるま湯にぼくの願いを混ぜて、母に飲ませてあげよう
と思う。


コメント
この記事へのコメント
私の母は、11年前に胃がんで他界しました。
その5日後に息子が生まれました。
お母様の御容態がいいということで、本当に良かったです。
お体を温めて、どうぞお大事になさって下さいね。
2009/10/13(火) 12:44:35 | URL | sunnylake #BYTNg32Q[ 編集]
母親想いのやつだから
安心してるけど
もし 君にその姿勢がなかったら
おそらく今の自分達はないだろう
その優しさがあるからこそ 友でもいられる

そのぬるま湯に想いを混ぜて
死を迎えるに対処するのではなく
今 生きている事に感謝で対処すべきと思う

自分も正露丸だったよ しかし 今だに
粉薬が飲めないのは...優しさゆえの
トラウマです...無理矢理押さえつけられ飲まされ
それ以来 今だに一度も成功した事がない☆
これも おかげさまです!! ^ ^
2009/10/13(火) 16:12:33 | URL | akki #-[ 編集]
桑田さんはどんな曲でも自分の歌にしますね。
かれのギタープレイも歌唱も本来とてもソウルフル
でブルースがルーツであることは誰もが承知。
ホ~ボーさんの書く文章も最後は必ず強いテーマ
を残す。「痛み」というテーマをしかりと文体の核とし、
そこに過去と今の心をうたう。
これはエッセイではなくまさしく「歌」なのかなと思い
ますね。感じさせるにはまず自分が感動することが
大切かなとつくずく思いました。
わたしは俳句や短歌を詠むことを仕事としている老人
ですが、くれぐれもその感性を大切にしてくださいませ。
理解者はかならずいるものです。
2009/10/14(水) 08:52:30 | URL | 酒桜 #-[ 編集]
sunnylakeさんへ
11歳のお子様をみるたびお母様のことを
想いだすのでしょうね。
ぼくの母は勤労感謝の日に生まれました。ぼくは
母の働いているところしか頭に浮かばないほど
とても働き者の母でした。よりによって勤労感謝の
日に生まれるなんて不思議なものです。いまは
ゆっくりしてもらおうと思いますが、、、、、、

いつもありがとうございます。


HOBO
2009/10/15(木) 04:14:45 | URL | Mr.HOBO #-[ 編集]
akkiへ
いやいやおたがい様。
馬鹿息子は長寿の秘訣だとさ!笑
「ありがとう」をあたためよう。
2009/10/15(木) 04:20:35 | URL | Mr.HOBO #-[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2009/10/17(土) 21:31:37 | | #[ 編集]
しみじみとしたいい文章ですね。
私もこれは、散文ではなく、「歌だ!」、と思いました。
歯の痛い息子のために、真夜中40キロの道を薬を求めに行く。
そして凍みいるように冷たい2月の水ではなく、
わざわざ湯を沸かしてぬるま湯で薬を飲ませる母。
そうして今、手術の跡を痛がる母に、
「もうすぐ痛みはとまるから、もうすぐだから」と、
同じ言葉をかけてやりたい息子。
『水ではなくぬるま湯にぼくの願いを混ぜて、母に飲ませてあげようと思う。』
と言う、最後の一文が、せつなく、しかし強い効果を出していますね。
なんだか完結した美しい歌を聴いているような気がする文だと思います。


2009/10/18(日) 22:32:46 | URL | 彼岸花さん #bKDOO.Zg[ 編集]
彼岸花さん
歌のような散文でしょうかね。
歌は「キーワード」と「落とし」がないと感動は
ないですからね。自然とそうなるのだと思います。
作文のようなレポートを書いて、よく母に笑われた
ものです。母は文才がありましたからね。生きた
文章、効果がある表現はぼくの場合、「感覚」が
強いのかなと思います。文章にかんしては彼岸花
さんの足元にも及びません。いつも勉強させてもら
ってます。技術を生かす源、良い題材があっても
それを良いと思える「心」がないと身になりません
。夕陽をみても美しいと思わないひともいれば、
オレンジ色を見ただけで夕陽を連想し、少年の日の
夕暮れを想いだし泪するひともいるのですから!
技巧と心のバランスこそがこの試みの妙なのかな
と思ったりします。
いつもありがとうございます、彼岸花さん。

HOBO
2009/10/19(月) 02:31:16 | URL | Mr.HOBO #-[ 編集]
酒桜さんへ
遅くなってすみません、酒桜さん!
俳句や短歌を詠まれる方にほめていただきお恥ずかしいかぎりです。
削いで削いで残った骨の太さに憧れますね。母に俳句でもとすすめた
ことがありましたが、「ふん!」とか言われました。ミステリーの文庫
を好むようです。あらすじを追いかける読書になってます。

HOBO
2009/10/19(月) 02:39:25 | URL | Mr.HOBO #-[ 編集]
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