Mr.HOBO
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思いやりのカタチ
 山を動かそうと思えばできたし、川を埋めてしまうことだって
できたのだ。要するに不可能なことなどない、元気があれば。

 いま、ぼくは食事を終え、あとかたずけをし、そう、洗濯もし、
いつも母がやっていたことをやらなければならないと思うと、気
が滅入ってしまう。こんな大変なことを高齢者にさせていたのだ
。申し訳なく思う。
 母はこのまえある病気の合併症で入院した。すこし長くなると
思う。3年ほどまえに母が癌になったときもそうだったが、大切
なひとがもしかしていなくなるのだと考えると、気が変になりそ
うだった。親孝行は早いうちにしなければ亡くなってからでは思
うだけの孝行になってしまう。

 よたよた歩いている母を見て、ぼそぼそ喋る母を見て、とろん
とした眼を見てぼくはいつもずいぶんつらくあたったものだ。ま
わりから見ると怒鳴りながら母の手をひくぼくのようなゴツい息
子はさぞかし思いやりのない親不孝の見本のように映っていただ
ろう。「さっさと歩いて!」「もっとしっかり喋れるだろう!」
こんな感じの叱咤しかできないぼくは病院内でも奇異な存在なの
か? ぼくは世界中でいちばん思いやりのある男なのに!

 ぼくにとって母はいつまでもあこがれの先輩で、母の働いてい
る姿を見ながら育ったから強い母のイメージがいつまでもぼくの
こころの中にある。てきぱきと業者に指示をする母、10kgの米
をひょいとかつぎ上げる力持ちの母、間違えていると思ったら上
司にでも噛みついていく正義感の強い母、そんなイメージしかな
い母はいま病室のベッドの上で寝息を立てている。どんな夢を見
るのだろう。

 頑張れ!と言われても言うことをきかない足と、腰と、腕も肩
も膝も、指先も、昔のそれとはちがう。あなただけはちがう!と
怒鳴っても母はもう昔の母ではない。そしてそんなことを言って
いるぼくだってもう昔のぼくではないのだ。「しっかりせぇ!母
さん!大丈夫だから!ほら!もっと真っすぐ歩いて!前を向いて
!ほら!そうじゃない!こっちこっち!」ぼくは周りのひとにな
んと言われようがいくら奇異な人に映ろうが、この叱咤のスタイ
ルは変えないだろう。それはいつかぼくが年老いて、身体が思う
ようにならなくなったとき、きっと天国にいる母から同じように
叱咤してもらいたいから。

 しっかりせぇ !  ほら!こっち!こっち!
真っすぐ歩いて!そうじゃない!ちがう!背中をのばして!
ぼくにしか聴こえないそんな叱咤を、ぼくはこころのどこで聴く
のだろうな。ぼくの想いを、また、この思いやりのカタチを母の
寝息のふもとまで届けたい。明日になればきっと今日よりも元気
な老人の眼にぼくはきっと勇気をもらうだろう。

 山を動かそうと思えばできたし、川を埋めてしまうことだって
できたのだ。要するに不可能なことなどない、元気があれば。



HOBO





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2010/07/26(月) 02:11:18 | | #[ 編集]
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